指と指とでつくった円で世界を切り取るとどうなるか。 覗き込んだ風景には、望みもしない迷彩がきらめいている。 重ねた三段アイスの上段を黙々と頬張る姿にお前はリスかと言ったところで、 相手はアイスを食べると無口になる呪いにでもかかっているのか ましな返答をしてくれない。虚しい。効きすぎた冷房に今にも腕に 鳥肌が立ちそうだ。何が面白くて男二人で肩を並べてアイスを分け合っているんだろう、 と正気に返らないうちにああとかうんとか適当な返事ではなくまともな会話を 成立させようとは思わないのか。ふざけたバンダナに崩れた円を、 無気力に腕ごと投げ捨ててみる。
「よく食えるねその苺のフレーバー」
「ああ」
「俺それなんか苦手なんだよね。ベリーベリーベリーとかまじベリーなくなればいいと思う。 うまい? まずくね?」
「コーン食っていいか?」
「それなくなったら俺はアイスをどこに置けばいいんでしょうかね」
なんなのこいつ俺とアイスをどうしたいの。かじられる寸前で 踏みとどまったコーンを奪い、中段のアイスにかぶりつこうとして 白い表面にうっすらと残る赤い染みに愕然とした自分にむしろ愕然とした。 そんなにケチくさい男だったか俺は。横からの無言の圧力にわざとのろのろ 自分の分のクッキーアンドクリームを食べながら俺たち何が面白くて 男二人でアイス食ってんだろう、若干正気に戻りかけた心が慌ててアイスを 喉に押し込んでくる。すごくむせた。やばい涙でそう。 ベリーベリーベリーとかまじベリーなくなればいいと思う。
「おえ……」
「終わったか、よこせ」
「友人としてなんか違うこと言おうよそこは」
「ああ」
「コーンの底折ってやればよかった」
今度は見たこともないグロテスクな青紫を頬張る相方に若干の嫌気を感じながら、 もしやさっきのアイスの底にはあれがついていたんだろうかと喉が引きつる。 呪いのかかった男はまたしても無口に逆戻りした。教会に行きたい。 また風景として切り取ってやろうか。指を重ねるだけであんたは世界から 遮断されるんだよそこんところよくわかってる?
「外は暑そうだねえ」
「ああ」
「ここの冷房効きすぎてるんだと思うんだけど」
「ああ」
「それうまいの?」
「ああ」
「……ああああああああ」
「ああ?」
ほんと何が面白くて男二人でアイス食わなきゃいけないんだろう、頭可笑しくなりそう。 頭を抱え、このしょっぱい状況に泣きたくなる。相方はコーンをバリバリ噛み砕きながら (勝手に食いやがったこいつ)ようやくちらりとこちらを見た。呪いが解けたのか。 なにこいつほんとわけわからん。ときどきやんなる。
「もうあんた星に帰れば?」
「あいにく地球出身なんだが」
「そうそれそんな返答をしてほしかったんだけどね、さっきまで。

「もう遅いし」

現実に戻った頭が限界を訴えている。俺が食べたのはアイスひとつ。 対してこいつはアイス二つにコーンまで俺にかまわず食った。ああ割りカンなんてするんじゃなかった。 アイスなんて食うんじゃなかった。なにが面白くて男二人でアイスを分け合って 食べるなんて気持ち悪い状況になったんだっけ。忘れた。
ぐしゃり、握りつぶしたコーンの袋が手の中でいやな音を立てる。 効きすぎた冷房に鳥肌まみれの腕をさすり、さてゲーセンにでも行きますか。 店を出ると、生ぬるい空気が待っていた。


(まだ夏にもならないのにね!)


『31』

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