そして世界は暗転する。 起こることは起こり、起こってはいけないことは起こらない。 運命は神様の手によって転がされているのだ。 一個人の考えをすべて集めても、神様には届かないのだ。 いまだにこの地球には謎があること、宇宙なんて見えてもいないこと、それがいい証拠である。 神様の運命はいつだって残酷だ。 ジーザス、クライスト。 「だから言ったろう」 「男」はそう冷たく言った。悲しんでも、痛んでも、怒ってもいなかった。 ただ冷たく、そう言った。そしてその言葉は誰にも届かず、 むなしく空気の中を浮遊し、小さくはじけて、消えた。 彼に届ける言葉。 彼は死んでいた。 無残であった。汚いし、悲惨だし、惨い。しかし、彼は笑っていた。 いかにも満足そうに、成し遂げたように、笑っていた。 「助けられた」とでも、言うかのように。 だから言ったじゃないか、「男」はちいさく自分にむかってそう言った。 (死んでしまうよ) 声は聞こえた? ありがとうといっていた? リアルに? 本当に? 妄想でなく? その言葉は響いた? 心の中に戻ってきた? 「ただの妄想だといっただろう」 冷たく言って、そしてちいさく、笑った。 (妄想でしかないというのは、君のほうでしょう?) 流れ込んだ彼の言葉が、ざらついた心の底に染みた。 そうだ、妄想でしかない。妄想でしかない、デビルだ。 「男」は頼りなく笑って、彼の死体のうえで溶けて、消えた。 『天使と悪魔』 |