諦めようと思う。
何もかも、捨ててしまいたい。
私の能力、私の罪、私の生、私の意味、私の理由。
風船に吐き出して、海に浮かべてやろうか。
それとも、空へとばしてやろうか。
そんな気分。虚無に似た、意識的な現実。
何にも無かった。はじめから、何も起こっていなかったのだ。
事実として、猫のシータも、買ったばかりのふわふわのベッドも使えなくなってしまったけれど。
何も起こっていない。私は生きている。
私は生きてしまった。ただ、それだけ。
ごめんね、シータ?
ごめんね。
ごめん。
いくら謝っても、私の罪は消えない。
私は、ベッドの上に鏡が一枚砕けているのに気づく。
少し大きな破片をとって、私を見る。
右目のものもらいはもう、完全に治っていた。
「さようなら」
鏡は、私の手を切った。痛みはあまりない。その痛みの代わりに、血があふれ出る。
それは、私の手を伝い、ベッドを染めた。
私の中の誰かが泣いて、私の中の誰かが怒って、私の中の誰かが微笑んだ。
こうやって私の能力、私の罪、私の生、私の意味、私の理由はどんどん膨らんで、私を追い詰めていく。
けれど、もう彼女はいない。彼女は、いないのだ。
私は独りだった。これからも、そして今までずっと。
「おやすみ」
いつかきっと、夢の中で。それはきっと、血の匂い。



『いつかきっと、夢の中で。それはきっと、血の匂い』
 

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