その瞬間、私は翔けた。
何も無い空へ。その青を掴みに、私は飛んだ。
至極薄い酸素を、肺に溜め込み、エネルギィを生成する。
そのエネルギィを使って、生きる。そして、飛ぶ。
青がほしい。その青がほしい。
手を伸ばして、空を掴む。
けれど、それは『から』なのだ。何も無い。だから美しい。
空は私とともに、微笑んで、私を包んだ。

涙は枯れた。
それでも聴こえる声。

「泣かないで」

誰が、言っているの? 誰に、言っている? 何のため?

今度は、ピストルだった。またもや、白く芸術的な手は、それを握っていた。
引き金には、華奢な指が掛けられている。

光。

また、空を掴む。

堕ちる。加速感。
充ちる。充足感。

「神様は、死んだ?」

ピストルを抱えたまま、静かに眠る。
もう、何も見えない。
静かな夜。静かな私。
声も、銃声も、もう何も聴こえない。空の彼方。



『翔ける、空へ』
 

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