その、白く滑らかで美しい指は、私の右の眼球に触れた。 「綺麗な眼ね」 少女の可憐な唇は、感情も抑揚もない声を発した。 彼女は美しい。氷のように、冷たく、透き通っている。そして、類稀なる複雑さを持っている。私よりも、はるかに複雑なシステムを。 「私の眼は、貴女にあげる」 私は、少女を見上げたまま、風が通り抜けるように微かに微笑む。 彼女の目が、少し見開かれる。そしてすぐに微笑んだ。その笑顔に、私はどきりとする。 「そう、ありがとう」 「だから、私は貴女がほしい」 彼女のか細い指に、力が入るのが解った。すこし、震えている。 「私は貴女よ」 彼女はすでに笑っていなかった。ガラス玉のような彼女の眼球と無感情の声は、私を通り抜けた。 「貴女は私ではない。貴女は貴女、私は私」 「そんなことないわ。買いかぶりすぎなのよ」 「いえ、それはいいの……。そんな事ではなくて」 私は、私の眼球を押している彼女の手を、優しく両手で包んだ。「なんでもないわ、なんでもないの」独り言のように呟く。 「みんな私で、そう、私でしかない」 部屋には私一人。買ったばかりのふわふわのベッドに、寝転がっていた。置いてあった手鏡で、自分を見る。 右目が少し腫れていた。そして、鈍い、微かな痛み。 目をつぶる。少女が微笑んでいるヴィジョンが目の裏側に映る。 決心する。もう、準備はできていたのだ。行動するのみが、私の意味。 皆、私。そして、私でしかない。 静かに眠っていた蕾たちは、暖かさに気づいて目を覚まし始める。 氷は溶け始め、体積を減らしながら、やがて私になった。 『右の眼球と、私の曖昧さ』 |