きれいな目をしているね。
かのじょはぼくをそう形容し、ぼくはそうかい、と首をたてにふった。

「あなたの目は、がらすだまのようね」
「そうかい」

また、言う。そうかい。かのじょのうすっぺらい身体から伸びる二本のうで。緩慢な仕草でそれがのびてきて、ぼくのまぶたに触れる。ひやり。ああ、つめたい。 「あなたは、海になるべきよ」「そうかい」 うみ、か。いいかもしれない。水になって、溶けてしまうのも。世界のいちぶになるのも。ぼくは世界。かのじょも、せかい。ぼくたちが還るべき場所は、せかい。しおの香りがする。ゼリーみたいな水の感触もする。いま、ぼくは海になろう。海になってみせよう。かのじょのために。

「……けれど、あなたは生きているわ」
「そうかい」

生きている。そうか、ぼくは生きている。呼吸をしている。酸素をすって、二酸化炭素をはいている。……あれ、おかしいな。呼吸のしかたがわからない。二酸化炭素をすって、二酸化炭素を吐いているようだ。これを、ひとは呼吸とは呼ばない。苦しい。苦しくない?

「あなたは、わたしと一緒にくるんだよ」

そうかい。ぼくは、きみと行くのかい。もちろんいいよ、いいよ。さあ、どちらに行ったらいいんだい。きみはどこだい。

「さあ、こっちだ」

きみが見えるよ。きれいなゆびだね。まっくろな服によくはえるしろだ。その、背中に背負っているぴかぴかしたものはなんだい。きみによく似合う。すてきだ。きみは、うつくしいね。さあ、行こうか。なんてぼくは幸せなのだろう。きみに、。



『そのひとみはせかいのおわり』
 

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