僕には大切な人がいた。 彼女は外を見たり庭を手入れしたりするのが好きで、僕は大きな窓から四季折々の花を見るのが好きだった。彼女が病で動けなくなってからはその役目が逆になっただけで、この関係が変わることはなかった。 僕は彼女の笑顔だとか、きれいなものを愛する心だとか、そういうものが大好きだった。 病で動けなくなった彼女は、日に日に弱っていった。それにつれて、彼女は少しずつ生きる意志をなくしていった。僕は人が死ぬのを見るのは初めてだったけれど、彼女を見ていればそれは相当につらいことなのだろうな、と思った。 「わたしが死んだら、逃げなさい」 彼女は外の鮮やかな色彩を見つめながら、ぽつりと呟いた。 「あなたはわたしなんかに捕らわれてはだめよ」 彼女の横顔が、さびしそうに微笑む。 「わたしが死んだら、あなたを縛るものはもう何処にもないわ」 そして彼女は死んだ。 僕は彼女を燃やして、骨を前に座っていた。 (わたしが死んだら、逃げなさい) ごめんなさい。 僕はあなたを、初めて裏切ることになる。 『グッド・バイ』 |